Vision

Digital Transformation(DX)から
Media Transformation(MX)に移る時代で
新たな価値観を生み出し、
人間の創造性を促進する

中西 崇文
2021.3.11(初稿)
2021.3.17(修正)

Digital Transformationの本質

Digital Transformation(DX)の必要性が叫ばれている昨今、ディジタルツールの発展、導入による自動化、自律化、効率化が急務となっている。

このように述べると、ディジタルツールを導入・改修ばかりが注目されつつあるが、DXの本質は、ディジタルツールを導入するにあたっての我々の「新たな習慣や文化を生み出し続ける覚悟」である。

DXというキーワードを履き違えてはいけない。ビジネスや業務にディジタルツールを導入すれば終わりではない。例えば、現在の業務プロセスに合わせてディジタルツールを導入・改修すると、従業員はこれまでと同じように業務をこなすことができるが、導入したディジタルツールのよさを最大限に活かすことができないばかりが、導入によって効果を生み出さなくなり、逆効果なのである。これでは、新たな習慣や文化を生み出すことはできない。

我々は、DXというキーワードのもと、導入・改修されるディジタルツールに合わせて、変わり続ける人・組織にならないといけない。DXというキーワードのもとで導入されるディジタルツールは、我々を変わり続ける、つまり、進化し続けることのできる力を与えてくれる可能性がある。

この可能性の源泉は、ディジタルツールを通じて日々生成、蓄積されるデータである。データを蓄積するだけでは、何も起こらない。そのデータを活用していく、データサイエンスが重要となる。

ディジタルツールを通じて日々生成、蓄積されるデータを分析、活用することにより、現実世界の事象を客観的に把握することができる。客観的に把握した事実を知るだけでは意味がない。我々が客観的に把握した事実を元に考え、意思決定をし、リアルタイムに行動を起こす、つまり、行動変容が重要だ。

日々時事刻々と変わり続ける現実が存在する間、データサイエンスは続き、我々の行動変容も続く。DXというキーワードのもと、我々の「新たな習慣や文化を生み出し続ける覚悟」、ディジタルツールの導入・改修、そこから生まれるデータを活用したデータサイエンス、我々の意思決定と行動変容、これら全てを我々人間が存続する限り続けていくことが、新たな時代の進化の形である。

Digital Transformation (DX)からMedia Transformation(MX)の時代へ

ただし、我々の認知には限界があり、データをどのように表現すれば我々にとって良い刺激となりうるかが問題である。この良い刺激によって生まれる意思決定と行動変容が重要ということになるが、行動変容において、人間が従前から持つの創造性を発揮することができれば、我々は劇的に進化ができる。

良い刺激という言葉を用いたが、ここでの刺激の意味は、単なる五感から受ける刺激だけでなく、それを通じて、認知した上で生まれる人間の感性の喚起を指す。私は、人間が従前から持つ創造性は、人間が持つ身体性と日々喚起される感性の融合から生み出されると考える。特に日々喚起される感性は、その変化の様相から、様々な創造力を生み出す源泉となる。

DXにより生成、蓄積されるデータをいかに人間の創造性を生み出すであろうよい感性の喚起に結びつけるかが、我々人間が持続可能な形で創造性を最大限発揮した意思決定と行動変容し、進化し続ける鍵となる。

つまり、重要なことは、そのデータをどのメディアで表現するかである。

必ずしも一種類のメディアである必要はない。今生成、蓄積され続けているデータについて、異なる形態の多数のメディアが共存し、重なり、収束し、変容し、相互に作用しながら、人間の創造性を生み出すであろうよい感性の喚起するメディアで表現すればよい。

DXにより生成、蓄積されるデータから、人間がよい感性の喚起するようなメディアを自律的に創造、選択、統合、変換した上で、データをそのメディアによって表現する環境を実現することにより、我々人間が持続可能な形で創造性を最大限発揮しつづけながら意思決定と行動変容を繰り返すことをMedia Transformation (MX)と呼ぶ。DXの次世代のキーワードとしてMXを位置付ける。

MXによって、Machine-readableであったデータをHuman-sensibleにすることで人間の認知能力を最大限に生かし感性を刺激し創造性を促進する。

Media Transformation(MX)は新たなExperienceを創造する

Experience(経験)は、人間の五感の新たな知覚、もしくは新たな知覚の組み合わせによって引き起こされ、共に感性を喚起する。ここでいう知覚とは五感を通じて外部の刺激を受け取り事物を捉える働きを指す。

同じデータだとしても、メディアが変われば、人間にとっては新たな知覚が生まれる場合がある。 例えば、あるポエムについて文字で読む場合と誰かが音読しているのを聞く場合とで全く違う知覚が生まれる。そのポエムを絵画で表現したものを観る、そのポエムを音楽で表現たものを聴く、これらは新たな知覚が生まれる。

つまり、本質は、「MXは人間にとって新たなExperienceを創造する」ということだ。

DXからはじまり、MXが実現することによって、Customer Experience(CX)やEmployee Experience(EX)が、完全に主戦場となってくる。

CXはサービス・商品における顧客視点での体験価値を指す。これは、DXによるディジタルツールを駆使した環境の中で生成、蓄積されたデータから、MXでどのように顧客にとって良い感性の喚起するようなメディアを自律的に創造、選択、統合、変換した上で、データをそのメディアで表現するかという問題に帰着する。

EXは組織における活動・事象を通じた従業員視点での体験価値を指す。これも顧客が従業員に変わっただけで構造は同じである。

これらのことから、MXを実現するメディアの創造、選択、統合、変換、表現を実現する機能の研究に価値が見出せる。

Media TransformationにおけるMapper&Metrics

MXにおいて、1) 今着目しているメディアがどのデータで同じような感性を喚起させる機能があるかを計量すること、2) 異なるメディアの関係性をモデルとして記述することの2点が重要となる。前者は同じメディア表現のものを比較するmetricsである。後者は異種メディア間を写像するmapperである。これらの二つの機能Mapper & MetricsがMedia Transformationの実装において重要となる。

特にMapperはMXを実現するための鍵となる。Mapperは作用素と逆作用素といった対になる要素で構成される*。例えば、AというメディアとBというメディアといった、メディア間の変換を実現するためには、AからBへの変換が作要素とすると、BからAへの変換が逆作用素となる。多様なメディア間に作用素と逆作用素といった対になるシステム、要素を準備することで、人間にとってよい感性の喚起するようなメディアを自律的に創造、選択、統合、変換した上で、データをそのメディアで表現することが実現される。

*このことについては、下記の論文で言及されている。
R. Okada, T. Nakanishi, T. Kitagawa, A Method of Knowledge Creation and Knowledge Utilization by Generalized Inverse Operator, In Proceedings of 2014 IIAI 3rd International Conference on Advance Applied Informatics, IEEE, pp.253–258, 2014.

(Deep Learningの界隈の例を示せば、従来から得意としていた画像認識をはじめとする認識系だけでなく、画像生成を実現するGANsのような生成系により、このふたつが作用素と逆作用素の関係となる。Deep Learningは非線形の演算を含むため、逆作用素の実現を真っ向から構成することは難しいと思われたが、生成系の実現により、作用素と逆作用素の関係を構築できたことは、大きなブレイクスルーである)

Media Transformationが
実現する
Interpretable Smart Computing

現在のAIシステムのほとんどは、何らかの入力をいれると何らかの出力が返ってくる。しかしながら、なぜその入力からその出力が返ってきたのかの根拠を示すことについては、苦手とするアルゴリズムが多い。

しかしながら、我々は、随時、意思決定をし行動変容をする環境に置かれている今、根拠とまでいかなくても、説得される理由を見つけたくなる。

この問題に関してもMXが一つの解を出してくれると考えている。様々なメディアで多様に表現することで、我々を説得できるような理由を提示できる場合があると考えられる。

元を正せばMXは多様なメディア間の作用素と逆作用素の対で構成されていることから、逆演算をすることが可能だ。逆演算で「検算」ができれば、後付けかもしれないが、根拠として提示する材料になると考える。

これはMXによる「後付けの根拠」を示すアルゴリズム、Interpretable Smart Computingを実現される。

Digital Transformation(DX)が
実現するのは自律化よる
新たな習慣や文化の醸成
Media Transformation(MX)が
実現するのは
人間の認知の拡張による
創造性の促進

DXによって実現されることはシステムの自律化による新たな習慣や文化の醸成である。もちろん新たな習慣や文化が醸成されることにより、価値が生まれることがあるかもしれないが、直接の効用は自律化による業務の効率化である。残念ながら効率化だけでは価値が生まれることは少ない。

だからこそ、素早くDXを実現し、MXの時代に移らなければならない。これからの時代に価値創造できることの一つは人間自身が創造性を発揮しメディアコンテンツを生み出すことだ。どれだけAI(人工知能)による自律化の波が押し寄せてきたとしても、人間が身体性と感性の変化から湧き上がる創造性を保ち続けることが必要である。

MXはDXで自律化された環境とそこで生成されるあらゆるデータを対象として、人間の認知機能を最大限に活かすメディアを自律的に創造、選択、統合、変換した上で、着目するデータをそのメディアで表現することができる。それにより、感性が喚起され、我々人間が持続可能な形で創造性を最大限発揮することが可能となる。

現在の環境は、レガシーメディアを含め、様々なメディアが創造されつづけている。人間に対して感性を喚起するメッセージを伝え切れるメディアが生き残る。これまでは、メディアの機能性に着目し、そのメディアの機能性を最大限に生かせるコンテンツを人間が制作してきた。今後は、まずデータ、もしくはコンテンツが存在しており、それらが一番人間の感性を喚起させるメディアを自律的に創造、選択、統合、変換し表現すればよい。

選ばれるメディアは1つでなく、複数でも構わない。異なるメディアが共存し、相互に変換し、統合し、ある形態のメディアが別の形態のメディアに変容し、感性が喚起され、我々人間が持続可能な形で創造性を促進する。

MXは、人間にとって新たな経験を生み出し、感性を喚起させ、人間の創造力を促進させる、これからの時代に必要な変革なのである。

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